複言語主義に基づいた大学教育実践への取り組み~仏独西中朝英の教育現場から

第二回シンポジウム(2021年7月24日開催)

2021/10/05

シンポジウム

OVERVIEW

2021年7月24日に、FLERの第二回シンポジウムがオンラインにて開催され、「複言語主義に基づいた大学教育実践への取り組み~仏独西中朝英の教育現場から」というテーマで、各登壇者にご発表いただきました。2020年度に開催された第一回シンポジウムは英語教育を主題に据えたこともあり、今年度は立教大学の必修で学ばれる英語以外の主な言語であるドイツ語、フランス語、スペイン語、中国語、朝鮮語教育を中心に活発な議論が繰り広げられ、英語教育との比較検討も行われました。

複言語主義は、今日の言語教育で広く浸透しつつあり、ますます多くの教育現場で取り入れられている考え方です。従来の多言語主義とは異なり、各人がさまざまな言語に触れることで、言語コミュニケーション力を包括的に鍛え、他者に対して寛容な思考方法・マインド・物の見方を獲得することを目的としています。多くの学生が大学入学までに学習する英語に加えて、新たな外国語に触れることで、既習の日本語や英語についてもさらなる言語理解が深まります。各言語に特有な思考の発想・文化的文脈に対して関心を持ち、体系的にコミュニケーション力をブラッシュアップしてゆくことも可能になります。

立教大学では「専門性に立つグローバル教養人」の育成を目指し、現在「Rikkyo Global 24」を掲げ、国際化推進に向けて取り組んでいます。専門性を身につけながら、国際シーンで活躍できるような広い一般教養を培うために、すべての学生が英語と、英語以外の外国語を必修科目として履修しています。このようななかで、英語教育のカリキュラム改革に続き、独仏西中朝露も2024年度を目指してカリキュラム改編の検討を進めています。その柱となるのが、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)の指標導入です。CEFRは、学習者を「社会的に行動する者」と規定し、言語能力を運用して他者に対し、社会に対して円滑なコミュニケーションが取れる道筋となる各レベル別の参照指標を提示しています。当然のことながら、言語学習の最終目標が、その運用と実践にあることは言うまでもありません。そして、CEFRの理念を支えるものとして、複言語・複文化主義が提唱されています。複数の言語と複数の文化と接することで、自身においてはそれまで当たり前であったと思われる発想や価値観が、必ずしも別の文化・言葉では当然ではないという事実を実感できます。いかに多種多様な言語圏・文化圏の人々と共存をはかってゆくのか、異文化理解の最初の一歩こそが、今日の言語教育に求められているものと言えます。各言語の話されている国および地域の文化を理解し、自らの文化も発信しながら、建設的な相互理解の先にある他者との共生へ開かることが、新たな世代に求められているでしょう。

FLERでは新たな時代を活躍の場とする学生の学びに相応するような外国語教育を模索するために、以下6名のパネリストの先生方から各教育現場の問題点や新たな教育実践についてご提案いただきました。以下、各発表の概要となります。

茂木 良治(南山大学外国語学部フランス学科教授)

応用言語学、フランス語教育を専門とされている南山大学外国語学部フランス学科教授の茂木良治先生からは、「CEFRから学習評価を考える」というテーマでご発表いただきました。最初のパネリストということで、CEFRの概要と日本への影響、CEFRにおける評価、日本の新指導要領による新しい観点に基づいた評価方法についてお話しいただきました。CEFRでは形成的評価が重視されていますが、日本における実際の運用では5技能別・6段階のレベルに基づく資格のための評価となってしまう傾向が問題点として挙げられました。その上で、今後形成的評価をどのように成績に反映させてゆくのか、そのバランスの見極めが重要であることが課題として指摘されました。

境 一三(慶應義塾大学経済学部教授)

二人目の登壇者である慶應義塾大学経済学部教授の境一三先生は、ご専門が言語教育学、ドイツ語教育、言語教育政策で、「複言語主義に基づいた第二外国語教育」というテーマでお話しいただきました。茂木先生の問題提起を引き継ぐ形で、CEFRの理念と日本における受容の問題、新指導要領の資質・能力論、第二外国語教育の意義、言語意識と学習意識の涵養について、ご自身の授業で実践されている「学生の振り返り」学習にも触れながら、ご発表いただきました。複言語主義の根幹に「平和的共存」という大きな目標があること、複言語教育には単なるスキル教育を超える意識・態度の養成という重要性があることをご指摘いただきました。

大森 洋子(明治学院大学教養教育センター教授)

スペイン語学(意味論、語用論)、スペイン語教育を専門とされる明治学院大学教養教育センター教授の大森洋子先生からは、「CEFR/スペイン語学習のめやすとスペイン語教育実践」というテーマでご発表いただきました。スペイン語教育研究会の立ち上げから主要メンバーとして活躍される大森先生からは、教員間の連携に加え、能力指標としてのCEFRをいかにスペイン語学習に展開するのか、共通シラバスと授業連携実践、グラフィックシラバスやポートフォリオの活用方法など、具体的な授業での運用例・実践例が紹介されました。グラフィックシラバスやポートフォリオについては、視聴者からも多くの関心が寄せられました。

西 香織(明治学院大学教養教育センター 外国語教育部門主任、教授)

中国語教育、中国語学(語用論)がご専門の明治学院大学教養教育センター教授で同外国語教育部門主任でいらっしゃる西香織先生からは、「大学中国語教育の現状と実践、そして課題」というテーマでご発表いただきました。国際言語としての中国語教育の改革、CEFR基準に基づく世界標準に合わせた新たな検定試験の創設、学習者を中国の「使用者」と定義づけた上での実践的な教育方法提案、授業内に中国語圏の学生と直接やり取りをする機会を設けたオンラインならではのグローバルな中国語教育など、さまざまな実践方法が紹介されました。最後に、インタラクティヴな活動やコミュニケーション能力向上を目指す教材開発の遅れについても指摘されました。

中島 仁(東海大学語学教育センター准教授)

韓国語学を専門とされる東海大学語学教育センター准教授の中島仁先生からは、「大学における韓国語教育の現況と問題点」というテーマでお話しいただきました。高等教育の第二外国語として学ぶ韓国語(朝鮮語)教育においては、CEFRの指標が現状では浸透していない点や、国内の韓国語(朝鮮語)教育のこれまでの歴史、各種検定試験、韓国語(朝鮮語)教育の特徴について解説いただきました。昨今、各大学で飛躍的に韓国語(朝鮮語)学習希望が高まるなか、最初の学習項目であるハングル(文字)の学習段階で苦手意識を持つ学習者が多いこと、継続学習を促す際の課題、各レベル授業間の連携など具体的な問題点が検討され、改善案が示されました。

新多 了(立教大学外国語教育研究センター長、教授)

最後のパネリストとなる当センター長の新多了先生からは「グローバル社会を生き抜く力としての複言語能力—英語教育の視点から」というテーマでお話しいただきました。第二言語習得、英語教育がご専門の新多先生からは、VUCA(Volatility不安定さ/Uncertainty不確かさ/Complexity複雑さ/Ambiguity曖昧さ)の時代と言われる今日、教育そのものが変容しており、自立した主体性を育むことが重要であることが指摘されました。また現在カリキュラム編成のまっただなかにある立教英語教育の具体的な変更点(CLIL導入)おいて言及され、言語教育と教室の枠組みを両者ともに超えるような2つのBeyondをその根幹ビジョンとして据えていることが説明されました。

各発表の後には各パネリスト間の質疑応答があり、最後に視聴者の方から頂きました多くの質問にご返答いただきました。ご参加いただきました皆様に、改めて感謝申し上げます。

※各パネリストの発表は、当センター紀要「外国語教育研究ジャーナル」第2号(2021年12月刊行予定)に掲載を予定しています。
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。

CATEGORY

このカテゴリの他の記事を見る

お使いのブラウザ「Internet Explorer」は閲覧推奨環境ではありません。
ウェブサイトが正しく表示されない、動作しない等の現象が起こる場合がありますのであらかじめご了承ください。
ChromeまたはEdgeブラウザのご利用をおすすめいたします。