フランス語で自らの考えが伝わる喜びを感じてほしい

フランス語担当:河野 美奈子 准教授(専任教員)

2024/04/03

研究紹介

OVERVIEW

立教大学外国語教育研究センター河野美奈子准教授(フランス語担当)にご自身の研究内容や今後の抱負等についてお聞きしました。

1.先生の研究テーマや、現在取り組まれている研究についてお聞かせください。

『愛人』表紙(清水徹訳、河出文庫、1992年)

大学院生のときから20世紀フランス文学を専門としています。そのなかでもマルグリット・デュラスの自伝的作品について研究をしています。1984年に出版された『愛人』(L’Amant)は世界的ベストセラーとなったためご存知の方もいると思います。1914年、仏領インドシナであったベトナムのサイゴン近郊で生まれた彼女は、当時の記憶をもとにした自伝的作品を長い年月をかけ数度書き換えをおこなっていきました。作品のなかで描かれるインドシナ表象がどのように変化していったのかを考察し、博士論文にまとめました。

ベトナム語とフランス語で書かれた『中北新聞』第2号、1915年1月14日発行、ベトナム国立社会科学図書館所蔵、撮影筆者

現在はデュラス研究とともに、仏領インドシナ時代にフランス式の教育を受けたベトナムの知識人について、そしてカナダ、ケベック州の先住民文学を中心に研究しています。ケベック州はカナダで唯一フランス語のみを公用語としている州です。フランス語で小説を書く先住民作家も多く、作品におけるフランス語の関係について研究を進めています。そのほか、共同研究としてフランスのルルドやイタリアのヴェネツィアといった場所と文学との関係についても研究しています。

2.ご自身の研究に興味を持ったきっかけについてお聞かせください。

10代の時に行ったカンボジア旅行でした。当時のカンボジアは、長く続いた内戦が終わりを迎え、これから国を立て直そうする人々の活気にあふれていました。アンコールワットが見たいとの思いからやってきたのですが、強く印象に残ったのは、プノンペンの街に佇むコロニアル様式の建物でした。かつてカンボジア、ベトナムそしてラオスがフランスの植民地であり、仏領インドシナと呼ばれていたことは知っていましたが、高温多湿の地域にはそぐわないヨーロッパ式建築が強烈な違和感として残りました。そのとき仏領インドシナとはどのような世界だったのだろうかという思いが湧きました。1つの場所で複数の文化や言語が混在していたことへのその時抱いた興味が文学そしてデュラス研究へとつながっていきました。彼女はフランス人ではありますが19歳までベトナムで生きてきたこともあり、インドシナは単に小説の舞台としてではなく、彼女の作品創作の根幹を支えていたとも考えられるのです。

3.ご自身の研究の面白さ・醍醐味はどのような点にあるとお考えでしょうか。

(左)日本ケベック学会での発表の様子(右)ケベックの先住民文学の専門家であるケベック大学モントリオール校のダニエル・シャルティエによる『北方の想像界とは何か』(Imaginaire Nord et Arctic Arts Summit, coll. «Isberg», 2019年)表紙、異文化コミュニケーション学部の小倉和子先生との共訳

1つの作品において複数の文化、言語が存在することに面白さを感じています。デュラスはフランス語で作品を書いていますが、19歳までベトナムで暮らしていたためある程度のベトナム語が出来ていたと言われています。またベトナムだけではなくカンボジアにも一時期住んでいたこともあります。複数の世界をまたがる彼女の想像世界はダイナミックなスケールを感じることができます。またケベックの先住民作家では、ケベック州で3番目に人口の多いファースト・ネーションズであるイヌーの作家を主に研究しているのですが、作家によっては作品をイヌー語とフランス語の併記で書いたり、フランス語だけで書いていたりします。彼らの作品のなかで、アイデンティティをめぐる問題を考えるとき、言語の存在は非常に重要な位置を占めています。

4.学生時代(大学や大学院、海外留学など)の経験や学んだことについてお聞かせください。

研究の始まりはカンボジア旅行がきっかけでしたが、研究を続けてこられたのはパリでの留学とリヨンでの日本語講師の経験でした。よくフランス人は個人主義と言われ、ドライな印象をもたれる方も多いでしょう。しかし実際には家族や友人の関係をとても大切にし、とても情熱的な人が多いです。また自分の意見をしっかりと述べることに人間関係では重きが置かれ、たとえ相手の考えと自分の考えが異なっていても、まずは話を聞くという形が会話のなかで出来上がっています。私がフランスにいた2010年代はフランスでは日本語ブームで多くの学生が日本語を学んでいました。漢字のテストでは苦戦していた学生も会話のテストでは生き生きと自分の話をする姿に、まずは話すという姿勢が語学学習では重要であると納得する瞬間でした。

5.現在の大学でのお仕事について。その内容や、楽しいところ、大変なところを教えてください。

フランスでの経験を活かして、学生にはまずはフランス語を「発音」することの楽しさを知ってもらい、そして短くても自分の考えを話せることができるように教えています。フランス語はいかに発音しやすいか、綺麗に聞こえるかを長年考え改良してきた言語です。フランス語を口にする喜び、そして自らの考えが相手に伝わる喜びを感じてもらいたいと考え、日々授業を行っています。

6.ご自身の今後の抱負や夢、研究計画についてお聞かせください。

デュラス研究では、デュラス作品とベトナム語の関係について探っていきたいと考えています。彼女の書くフランス語と、ベトナム語との類似点はすでに指摘されているのですが、まだまだ研究の余地を残していると考えられます。またケベックの先住民研究は私自身が最初の1歩を踏み出したばかりの段階です。彼らの描く豊かな文章とフランス語との関係について丁寧に掘り下げていきたいと考えています。

※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。

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