気になったら立ち止まり、近づいてみる:「下馬観花」のススメ
中国語担当:森平 崇文 教授(専任教員)
2025/02/28
研究紹介
OVERVIEW
立教大学外国語教育研究センター森平崇文教授(中国語担当)にご自身の研究内容や今後の抱負等についてお聞きしました。
1.先生の研究テーマや、現在取り組まれている研究についてお聞かせください。

著書『社会主義的改造下の上海演劇』(2015年、研文出版)は20世紀中期の上海の各劇を論じています
私の研究テーマは中国の都市上海と中国の演劇の歴史です。20世紀中国一の大都市であった上海の都市文化を、役者、演目、劇場といった演劇や、新聞、雑誌、ラジオなどのメディアを中心にして研究しています。一方、中国の演劇の特徴や歴史を、20世紀上海に各地の演劇が進出、定着(撤退)していく過程を通じて研究しています。中国演劇の視点から上海を、都市上海という空間において中国演劇を、それぞれ研究するという、いわば二刀流です。
2.ご自身の研究に興味を持ったきっかけについてお聞かせください。

中国共産党の聖地陝西省延安にて(2005年)。この時期がビジュアル的に最も中国化していました
2001年から2002年、2005年から2006年の計2年間、上海に滞在しました。それまでは中国近現代の知識人を対象とした思想史を研究していましたが、東洋と西洋、伝統とモダン、静謐と猥雑が混在する上海にすっかり魅了されました。上海滞在をきっかけに研究対象を20世紀上海の都市文化に絞りました。
中国の演劇も上海滞在中、劇場や演芸場に通う中でその魅力に気づきました。2002年正月に上海で観た京劇『曹操と楊脩』の感動は今も記憶に残っています。役者、演目、興行システム、観客の反応などを通じて演劇を研究する方が中国人の感性をより深く理解できるのではと考え、研究テーマを思想史から演劇史へ変更しました。
中国の演劇も上海滞在中、劇場や演芸場に通う中でその魅力に気づきました。2002年正月に上海で観た京劇『曹操と楊脩』の感動は今も記憶に残っています。役者、演目、興行システム、観客の反応などを通じて演劇を研究する方が中国人の感性をより深く理解できるのではと考え、研究テーマを思想史から演劇史へ変更しました。
3.ご自身の研究の面白さ・醍醐味はどのような点にあるとお考えでしょうか。

旧西本願寺上海別院。気まぐれで足を踏み入れた小さなストリートにて旧跡と出会い、脳内でタイムスリップする、これが「下馬観花(馬から下りて花を観賞する)」の醍醐味です
都市研究はたとえ過去のことを研究する場合でも実際に現地を自分の足で歩くことで、距離感や周囲の環境を理解できることが多いです。大通りだけでなく寄り道して路地裏に入り込む、時に迷子になることも土地勘を養う点で重要となります。これらは街歩き好きには大変楽しいです。
演劇研究では現存しない役者や演目の多くは映像が残っておらず、音源を除くと自分で渉猟した文字資料や非文字資料をもとにしか追体験できません。手元にある資料によって分析の結果が大きく変わるため、その分資料の調査、収集、分析には力が入ります。意外なところで思いもかけない資料を発見し、そこから新たな情報が得られ、時には自分の予測や通説が覆されることも研究の面白さです。
演劇研究では現存しない役者や演目の多くは映像が残っておらず、音源を除くと自分で渉猟した文字資料や非文字資料をもとにしか追体験できません。手元にある資料によって分析の結果が大きく変わるため、その分資料の調査、収集、分析には力が入ります。意外なところで思いもかけない資料を発見し、そこから新たな情報が得られ、時には自分の予測や通説が覆されることも研究の面白さです。
4.学生時代(大学や大学院、海外留学など)の経験や学んだことについてお聞かせください。

中国の漫才公演で通訳をつとめる(右、2015年、東京都台東区にて)。学生時代から寄席演芸に親しむものにとり、趣味と仕事が結びつく至福の時です
大学1年次に立教の全カリに相当する科目で「近代思想史」という授業を履修しました。同科目にて文、経済、商、医など学部横断的に集まった履修生たちと先生の研究室等で読書会をしたことは、学術書を読む面白さを知る第一歩となりました。
また大学、大学院を通じて日本の伝統演劇、現代演劇、寄席演芸を多く観ました。大学院時代は京橋のフィルムセンター(現在の国立映画アーカイブ)や池袋の新文芸坐など名画座にもよく通い、成瀬巳喜男や木下惠介などの日本の古い映画と出会いました。
また大学、大学院を通じて日本の伝統演劇、現代演劇、寄席演芸を多く観ました。大学院時代は京橋のフィルムセンター(現在の国立映画アーカイブ)や池袋の新文芸坐など名画座にもよく通い、成瀬巳喜男や木下惠介などの日本の古い映画と出会いました。
5.現在の大学でのお仕事について。内容や、楽しいところ、大変なところを教えてください。

24年度からの新カリキュラムに合わせ、中国語基礎科目で新しいテキストを編集しました
授業は中国語の基礎科目、自由科目の他、総合系の「中国語圏の文化」を担当しています。「中国語圏の文化」では上海の歴史について講義しています。履修生から、授業で紹介した料理を食べました、映像作品を観ました、中国語圏に行ってきました、などの事後報告を受けるのは大変うれしいことです。
中国語教育研究室の室員として大学全体の中国語教育の運営にも携わっています。開講する科目の内容やテキスト、科目担当者などを室員らとあれこれ議論する、FDなどで最先端の教授例を知ることも楽しい業務です。
中国語教育研究室の室員として大学全体の中国語教育の運営にも携わっています。開講する科目の内容やテキスト、科目担当者などを室員らとあれこれ議論する、FDなどで最先端の教授例を知ることも楽しい業務です。
6.ご自身の今後の抱負や夢、研究計画についてお聞かせください。

左)共訳した上海の概説書『上海 記憶の散歩』(2023年、勁草書房)、右)上海遠征をする立教大学バスケットボール部の旅費をカンパするために開催された映画会のパンフレット(1924年、個人蔵)
これまで上海史と中国演劇研究の二刀流でやってきましたが、軸足は中国演劇の方にありました。日本における上海史研究がピークを過ぎ下火になりつつある今だからこそ、より上海史研究にウエイトをおいていきたいと思います。立教の創立者ウィリアムズ主教が上海で伝道していたなど、立教と上海との関係についても調べてみたいです。
授業に関してはパフォーマンスを取り入れた中国語の授業をぜひ定着させたいです。外大や外国語学部で行っている語劇ほど大規模なものではなく、授業の一部で導入できないか模索中です。
授業に関してはパフォーマンスを取り入れた中国語の授業をぜひ定着させたいです。外大や外国語学部で行っている語劇ほど大規模なものではなく、授業の一部で導入できないか模索中です。
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。