自身の興味や関心を深めることを通して、他者の存在に気付ける感性を身につけてほしい

朝鮮語担当:佐々木 正徳 教授(専任教員)

2024/07/26

研究紹介

OVERVIEW

立教大学外国語教育研究センター長・佐々木正徳教授(朝鮮語担当)にご自身の研究内容や今後の抱負等についてお聞きしました。

1.先生の研究テーマや、現在取り組まれている研究についてお聞かせください。

ソウルの龍山駅構内にて<2019年>

韓国社会と韓国男性を主な対象としてジェンダー構造の分析を行っています。これまで男性運動団体での参与観察研究や特殊な服務で兵役を終えた男性の聞き取り調査など「人」を主たる対象とした研究を行ってきましたが、数年前から軍事遺構など「場所」を対象とした現地調査を始めました。韓国は「済州4.3事件」「朝鮮戦争」「光州事件」といった現代史上重要な出来事が多くあり、当時の様相を感じることのできる「場所」が全国に存在しています。それらの中にはジェンダーの非対称性を示しているものもあり、韓国社会のジェンダー観を探る上で大きなヒントを示していると考えられます。

ある社会のジェンダーはさまざまな要素の集積で、さながら複雑に絡み合った糸のようなものです。縺れを少しずつ解きほぐしていくような、そんな気持ちで研究に取り組んでいます。

2.ご自身の研究に興味を持ったきっかけについてお聞かせください。

江原道の展望台から平和を望む<2015年>

「韓国」への興味と「ジェンダー問題」への関心が別々に存在していました。前者は中国やオーストラリアなど他の隣国に比べ中高の教科書での扱いが少ないことにふと疑問を持ち、隣国の基本的なことは知っておこうと思ったのがきっかけです。大学2年生の終わりに初めて韓国に行ったとき「もっと深いところまで知りたい」と感じたことを覚えています。その後、4年生の秋に公益財団法人日韓文化交流基金の大学生訪韓団のメンバーに選ばれ、全国から集まった20名ほどの仲間たちと10日間かけて韓国をソウルから釜山まで縦断しました。そのときの経験が韓国研究を志す決定打となりました。

後者は中学生の時に新聞でジェンダーを専門とする大学教授の連載記事を読んだことがきっかけです。性役割規範が社会的に作られたものだという連載だったと思うのですが、子どもながらにすごく納得したことを覚えています。

「韓国」と「ジェンダー」は私の頭の中で交わらずに併存していたのですが、将来について悩んでいたある日、何の前触れもなく出逢いを果たし、今に至ります。

3.ご自身の研究の面白さ・醍醐味はどのような点にあるとお考えでしょうか。

数度目の板門店訪問<2018年>

韓国は日本と比べられることが多いですが、みなさんは日本と韓国は似ていると思いますか?この問いに単一の正解はありませんが、「異文化を理解する」とはどういうことであるのかについての本質的な問いであると思います。ぜひ、いろいろな角度から考えてみてください。

そして、ジェンダーについて学ぶことはこの問いへの大きなヒントとなります。なぜなら、ジェンダーはその社会をうつす鏡であり、かつどの社会にも何らかの形で存在しているものだからです。つまり、ある社会のジェンダー構造を明らかにすることは、当該社会を理解する上で大きな手がかりになると同時に、当該社会と他の社会との類似性と相違を理解する手がかりにもなるということです。特殊でありながらも普遍であり、普遍でありながらも特殊である対象、それが、ジェンダーについて研究する大きな魅力です。

4.学生時代(大学や大学院、海外留学など)の経験や学んだことについてお聞かせください。

脱北者と行くDMZツアーにて<2024年>

大学は文学部だったのですが、教育学部の授業をよく受講していました。教養科目も大好きで、医学部や理学部の先生が担当する授業をたくさんとるような学生でした。いま思うと当時から学際的な試みに関心が強かったのかもしれません。

卒業後に故郷を離れ教育学系の大学院に進学したのですが、異文化体験に満ち溢れた、よく言えば刺激的、悪くいえばストレスまみれの日々でした。所属した研究室メンバーの研究は、ブラジルの日系人、インドの子ども、中国少数民族の楽器など、地域も対象も本当にバラバラ。文化的背景が異なると感じることも多く、とにかく毎日必死でした。ただ、この「アウェイ」経験を留学前にできたことはすごくよかったです。おかげで韓国留学のときはカルチャーショックがほとんどなかったですから。異文化は外国に行かなくてもあるということに気づけたことも、とても大きな財産になっていますし、大学院で苦楽をともにした友人たちとはいまだに連絡を取り合う仲です。

5.現在の大学でのお仕事について。内容や、楽しいところ、大変なところを教えてください。

現在は現場(授業)よりはマネジメント業務を主に担っています。学生にとっては学びの成果がみえやすい、教員にとっては自身の長所が発揮できる授業環境を整えようと尽力しています。が、言うは易く行うは難しで...やり甲斐のある点でもあり、大変な点でもありますね。

2024年度からスタートした新カリキュラムの構築に携わることができたのは大変光栄なことでした。これまでの授業経験で培った経験を総動員し、ミーティングに臨んでいた日々が思い出されます。授業は学生と対面する教員の力量が重要なことは言うまでもありませんが、実は教室だけで完結しているものでは決してなく、教材を開発する人、カリキュラムを作成する人、教授法を考える人など、さまざまな人の働きかけの集大成(ゴール)として存在しているものです。今はそうした目立たないけれど重要な役割を担えていて、非常にしあわせなことだと感じています。

6.ご自身の今後の抱負や夢、研究計画についてお聞かせください。

著書:「韓国語能力試験 TOPIK I 必ず☆でる単スピードマスター 初級1200」

多くの方の協力のおかげで、学生時代も含めこれまでさまざまな場所でたくさんの貴重な経験を積むことができました。教員生活もそろそろ折り返しでしょうから、いろいろなレベルでの「還元」を意識的にしていこうと考えています。

例えば、韓国語能力試験(TOPIK)の単語帳は長年構想があったものを縁あって形にできたものです。単純に単語を選定しただけではなく、紹介する順番や例文、書体や音声にいたるまであらゆるところにちょっとした工夫をしているのですが、気付いてくださる方も多く著者冥利につきます。これからも「自分だからできる還元」を地道にしていきたいです。

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