大衆文化メディアから中国を探る

中国語担当:南雲 大悟 准教授(専任教員)

2024/09/19

研究紹介

OVERVIEW

立教大学外国語教育研究センター・南雲大悟准教授(中国語担当)にご自身の研究内容や今後の抱負等についてお聞きしました。

1.先生の研究テーマや、現在取り組まれている研究についてお聞かせください。

「固めるアレンジ&ワイド」や「頭にえがく作文イメトレ」などに反映。NHKテキスト『まいにち中国語』10月号(表紙)、NHK出版、2024年

中国の大衆娯楽文化である漫画を「プロパガンダを担うメディア」として捉え、表象文化論的な側面から研究しています。現在は主に作品中に描かれる批判対象の視覚的表現やイメージの分析に取り組んでいます。具体的には日中戦争期(1930年代~40年代)に中国側で発行された漫画誌がどのような日本表象を行っていたのか、また、中国国内では政治的に敏感なテーマとされる文化大革命期(1966~1976)の漫画創作活動やその中における政敵や人民・英雄の表象などを取り上げてきました。

このほか、中国語教育の分野では「孤立語」である中国語の特徴をふまえた効果的な文法(語順)教授法を検討してきました。その成果の一端として、語順指導に特化した「視覚的整理」や、ある状況をイメージしてから文法表現を考える「イメトレ」を取り入れ、テキストや学習参考書の一部に反映、発表しています。

2.ご自身の研究の面白さ・醍醐味はどのような点にあるとお考えでしょうか。

陳執中編著『漫画教程』長安印刷廠,1943年,pp4—5

我々が中国の諷刺漫画を観賞するには作品が発表された時代や社会背景、諷刺される対象(人物・事件)をおさえつつ、さらに中国の言語や文化に係る知識を活用しながら作品を読み解かねばなりません。中国の方ならばその漫画を見るとすぐ理解できる内容であっても、我々の場合はカギを握る表現を見逃しかねません。創作者が配した成語の視覚化、動物のイメージ、身ぶり手ぶりの描写など多岐に渡る表現の工夫をすべて汲んで、西洋美術における図像学のように一つ一つ解釈していくことは非常に面白い作業です。さらに、創作者自身のその時期における価値観や諷刺対象に対する偏見・畏怖のような内面までもがそこから抽出できるのではないかと考えています。

3.学生時代(大学や大学院、海外留学など)の経験や学んだことについてお聞かせください。

立教大学外国語教育研究センター公開シンポジウム「高等教育機関における言語教育の未来—CEFR-Jの開発と多言語への応用」にて〈2024年〉

学生時代の印象深い経験はやはり2000年9月から約1年間に及んだ北京留学です。北京滞在中は中国人漫画家や漫画出版関係の方々から研究テーマに関する貴重なお話をたくさん伺うことができました。このように当事者の「生」の声に触れることで文献を読んでいるだけではわからなかった新たな知見が得られました。

留学当時、八十余歳であった中国の著名な漫画家・華君武(1915~2010)や丁聰(1916~2009)には私自身の興味から失礼を承知で日中戦争や文化大革命の各時期における創作活動について取材をさせていただきました。当人にとってはつらい記憶もあったと思いますが、嫌な顔一つせず、鷹揚な対応をしていただいた点にたいへん感動いたしました。

4.現在の大学でのお仕事について。内容や、楽しいところ、大変なところを教えてください。

研修先である国立台湾師範大学国語教学センターにて。現地スタッフの陳先生と〈2023年〉

中国語の科目担当についてはこれまでペアワーク・グループワーク中心の授業設計に注力してきました。学生間での相互練習や相互チェックを前提に、常に学生の能動的学習を促す仕掛け作りを工夫しています。視聴覚教材を新たに作成したり、ゲーム的な学習活動のアイデアを練ることも楽しみで、寝食を忘れて授業準備に没頭することも珍しくありません。

このほか、今年度は台湾現地での研修を行う3週間プログラムの授業担当もしております。留学経験を有する日本人学習者の先輩として、学生たちの言語学習や文化理解に係るサポートに万全を期してまいります。

5.ご自身の今後の抱負や夢、研究計画についてお聞かせください。

漫画家個人の作家研究に興味があります。華君武・丁聰など著名な漫画家に関する文献や図版資料を収集・分析の上、彼らの創作観や創作実践に評価を与えながら、漫画という大衆文化から中国メディアの特性や本質のようなものを探りたいと考えております。また、これまでの漫画表現の分析を用例ごとに分類し、「中国諷刺漫画のシンボル・イメージ事典」にまとめることなども考えております。

中国語教育の分野では今後も教育実践や教材開発を通して「日本人学習者への効果的な教授法(語彙・文法・音声)」を模索し、その成果を適宜教場へと還元したく存じます。

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