言語の音声的特徴を深く理解したい
英語担当:シュロスブリー 美樹 准教授(専任教員)
2025/10/01
研究紹介
OVERVIEW
立教大学外国語教育研究センターシュロスブリー美樹准教授(英語担当)にご自身の研究内容や今後の抱負等についてお聞きしました。
先生の研究テーマや、現在取り組まれている研究についてお聞かせください。
私の研究分野は第二言語習得と音声学です。主には英語スピーキングの流暢さの研究をしてきました。その中でも、母語における流暢さと第二言語における流暢さの関係、両者の測定値を比較する方法、第二言語習得開始年齢が流暢さに与える影響、などについて研究してきました。おそらく自分の中にある疑問は、日本語で話している時と、英語で話している時とでは、私の流暢さはどれくらい違うのだろうという事と、私のような帰国子女ではない英語学習者と、幼少期から英語に親しんだ人の間には、流暢さの様相に何か違いがあるのだろうか、という事が気になっているのだと思います。またスピーキングと同時に発音研究も行っていて、最近はAIを使用した発音トレーニングの研究を始めています。
ご自身の研究に興味を持ったきっかけについてお聞かせください。

自分の現在の英語音声を測定して、ゴールとする数値と比べてみたいという思いは、修士課程で学んでいる時に生まれたものです。尊敬する英語教育の指導教官が帰国子女の日英バイリンガルの方で、私もいつか先生のように英語教育について英語で流暢に語れるようになりたいなと思っていました。そこで、その先生が受けられた、英語教育に関するインタビューと同じような内容で私も友人にインタビューしてもらい、両者の音声を比較しました。その結果、流暢さ(発話速度とポーズの数)と複雑さ(語彙と文法構造)において、なんと私の英語力は先生の半分くらいだった事がわかり、愕然とした覚えがあります。言い訳っぽく聞こえますが、その当時の私はまだ英語教育について語れるほど知識が十分ではなかったこと、また文才豊かな先生の言語能力が高すぎて、この結果は英語力だけの問題ではないのではないか、とも思いました。その事から、他人と比較するのではなく、自分の母語と自分の第二言語を比べたいと思い、母語と第二言語における流暢さの関係とその比較方法に興味を持ったわけです。
ご自身の研究の面白さ・醍醐味はどのような点にあるとお考えでしょうか。

音声イメージ図:本画像は生成AIを用いて作成しました
仕事に関係した英語教育のスピーキングや発音の研究をしながら、音響音声学を深く学んでいける事が、私の研究の醍醐味だと思います。私の研究は、音声を可視化するソフトを使って音声分析をします。音声を可視化すると、まるでそれぞれの音に指紋があるように、音の特徴を目で確認する事ができます。音の知覚的な特徴は、高さ、長さ、強さ、音質ですが、特に面白いなと思うのは音質です。大学院で「母音の質」を勉強している時に学んだフーリエ変換がとても不思議で、もっとこれについて知りたいと思っています。音の高さ(基本周波数)は耳で聞こえますが、実は音波には基本周波数以外にも音の高さとしては耳で捉えられない周波数のサイン波がたくさん入っていて、それが音質の差を生んでいるそうです。「あ」と「い」の違いも、楽器の音色の違いもそこから生まれるらしいのですが、これがどうもまだ感覚的にピンときません。つまり例えて言えば、色々な複雑な味のスープも、細かく分析していったら、塩(サイン波)だけでできていて、味の違いは塩の粒の大きさや量やバランスの違いだと言っているようで、摩訶不思議なのです。それで言語学専攻で習った調音音声学だけでなく、音響音声学をもっと深く理解したいと思っています。
現在の大学でのお仕事について。内容や、楽しいところ、大変なところを教えてください。
私が担当しているクラスは、全カリ英語科目のDiscussionやDebateなどのスピーキング力の促進に関係したクラスもあり、大変やりがいがあります。立教大学の英語教育カリキュラムの元で、学生のスピーキング力が伸びていくのを肌で感じる事ができます。また、全カリ総合科目のUnderstanding Speech Soundsというクラスも担当しています。そこでは音声学の基礎知識と音声分析のスキルを教えていて、音声に関する面白さをどうやって伝えられるかいつも試行錯誤しています。また私は、英語教育プログラムの企画・運営にも深く関わっており、これも大変やりがいのある仕事です。立教大学では1600コマ以上の英語クラスが提供されており、私達が扱う仕事の種類や量は非常に多いですが、多くの先生方や職員の方と共に英語教育に携わる事ができるのが楽しいです。もちろんこれだけの規模となると、様々な事が日々起こって大変ではありますが、マネジメント能力や問題解決能力も身につくので勉強になります。
ご自身の今後の抱負や夢、研究計画についてお聞かせください。

自分が英語母語話者だったら、こんな感じの発音で話すだろうという音声をAIで作成し、それを目指して練習する方法が効果的か調べたいと思っています。ふつう発音練習というと、誰か母語話者のモデル音声を真似して練習する事が多いですが、自分の声質を伴うモデル音声を作って、それを真似するという事です。その方が真似しやすいですし抵抗感がないのではないかと思っています。もちろん自分の声質と似た母語話者を探して真似する方法もあると思いますが、まさに自分の声質という音声だったら、こういう音を産出するには、舌をこうすればいいのではないかと推測しやすいから、今まで調音がうまくいかなかった音でも可能になるかもしれません。今から数年はこれについて調べる計画です。
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