第二部およびディスカッション概要

「高等教育機関における言語教育の未来—CEFR-Jの開発と多言語への応用」開催報告(2024年7月31日開催) 執筆者:関未玲

2024/10/23

シンポジウム

OVERVIEW

立教学院創立150周年記念・外国語教育研究センター開設5周年記念
立教大学外国語教育研究センター公開シンポジウム
「高等教育機関における言語教育の未来—CEFR-Jの開発と多言語への応用」

※ こちらは、第二部でのご発表とディスカッションを基に報告しています。
  • 大阪大学大学院人文学研究科言語文化学専攻講師 井坂ゆかり先生
  • 東京外国語大学
    世界言語社会教育センター特任講師 梅谷博之先生
    大学院総合国際学研究院教授 望月圭子先生
    大学院総合国際学研究院准教授 森田耕司先生
  • 立教大学外国語教育研究センター
    泉水浩隆教授(スペイン語)
    山田徹也特任准教授(ロシア語)
    南雲大悟准教授(中国語)
    牛山さおり准教授(ドイツ語)
    関未玲教授(フランス語)
シンポジウムの第二部は、大阪大学大学院人文学研究科言語文化学専攻講師の井坂ゆかり先生と東京外国語大学世界言語社会教育センター特任講師の梅谷博之先生(当日は体調不良によりご欠席)によるCan Doテストの実施報告に関する発表から始まりました。東京外国語大学ワールド・ランゲージ・センターにて年月をかけて構築に取り組まれたCan Doテストの第1回目の実施が、2023年度に行われました。2021年度から作問、システムへのデータ入力、リスニング問題録音を準備され、東京外国語大学の学生が学ぶ28の専攻言語のうち、日本語を除く27もの言語でCan Doテストが実施されました。各テストアイテムがCan Doディスクリプタ(言語活動場面の具体的な指示)と合致しているか、CEFR-Jが意図しているレベルに合っているか、システム上のチェックなど、複数回にわたる確認を経て行われた本テストの実施後アンケートでは、「解きやすかった・ちょうどよかった」「学習の振り返り・自分の言語知識やレベルを認識できた」「勉強を頑張ろうと思った」等の学生からの評価も高かったことが報告されました。

井坂先生のご発表に続き、東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授の望月圭子先生から CEFR-Jに基づく中国語能力評価について、初修外国語としての中国語到達度を、学習者がどのように自己評価しているかについて分析がなされました。ケーススタディーとして、中央大学法学部遠藤雅裕教授、富山大学学術研究部教養教育学系福田翔准教授、文教大学張正非常勤講師の協力を得て、中国語を4か月学んだ中国語履修者303人(初修外国語が必修の法学部・経済学部・人文学部・教育学部・医学部・薬学部の1年生)に対してCEFR-Jに基づく自己評価アンケートを行った結果分析について紹介がありました。アンケートを通して、学習者がCEFR-Jに基づく言語能力評価を学び、学習者自身が、自身の中国語言語能力評価を意識する効果につながったと報告されました。その後、東京外国語大学中国語専攻の学生による国際共同教育としての中国語対話プロジェクトの効果について、東京外国語大学言語文化学部・国際社会学部の中国語専攻3年次・4年次学生と、中国・台湾の大学の日本語学習者との一対一の対話による国際共同教育の2年間にわたる縦断的効果の実践例と、中国語4技能検定試験HSK及びTOCFLのスコアが報告され、リスニング・スピーキングスコアがB1からB2へという向上が報告されました。

最後は、東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授の森田耕司先生から、「外国語としてのポーランド語国家検定試験とCEFR」についてご発表がありました。外国語としてのポーランド語国家検定試験の起源は1999年に遡り、欧州語学検定協会の専門家によって作られた外国語能力テストの国際標準規格を出発点として、制度が構築されたことが報告されました。また政府機関主導で実施されている本試験は、ポーランドの市民権を取得できる条件の1つとなっていることも紹介されました。2024年で制度開始から20年を迎えるなか、受験者数の増加が顕著で、新たな教育プログラムや教授法が開発されているそうです。さらに昨年実施された検定試験と、東京外国語大学ワールド・ランゲージ・センターのポーランド語Can Doリーディングテストの両方を受験したポーランド語専攻学生の試験結果の分析も示されました。

第二部後半では、東京外国語大学で実施されたCan Doテストの実施報告を受けて、立教大学スペイン語担当の泉水浩隆教授から文字体系の異なる言語の扱いについて正書法上の問題や異体字、レベルでの扱いについて質問がありました。また、立教大学ロシア語担当の山田徹也特任准教授から、学習効率の面からポーランド語やロシア語のように格変化をはじめとする語形変化の多い言語は文法事項を覚えてから進めるべきだという意見もあるなか、CEFR準拠のポーランド語教材の作成する上での留意点について質問がなされました。また、立教大学中国語担当の南雲大悟准教授からは、「中国語対話プロジェクト」に関連して、「HSK・TOCFL」のスコアを用いて中国語能力評価とCEFR-Jの自己分析をした際の関連性について質問がなされました。最後に立教大学ドイツ語担当の牛山さおり准教授から、A1 レベルの言語が複数出来れば、複言語・複文化の理念にかなうのではないかという意見があるなか、異文化理解に至る過程で1つの言語を深く掘り下げて学んでゆく視点について問題提起がなされ、各言語の視点から熱い教育観が示されました。

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